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2024年 欧州近自然川づくり調査報告

6. どうしたら、ネイチャーポジティブな河川管理が可能になるか?~イギリス・スイスの知恵を活かす~

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北海道大学大学院 名誉教授 中村 太士

要約

はじめに

スイスとイギリスに行って印象が残ったこととして、3つの話をします。 まず、Natural Flood Managementですが、おそらくリーキーダムは何らかの形で生物を含めてレガシーを残すということ。 これは、私が30代でオレゴンにいたときに、目的は違いますが、既にやっていたので、それも含めて話したいと思います。 次に、かつてヨーロッパで言われていたRoom for Riversの考え方が、日本の流域治水や北海道の遊水地を見ていて改めて大事だと思うので、その点の話をします。 それから、パートナーシップの話ですが、日本はえてして公共に頼る姿が多かったのですが、徐々に日本の中でも違う芽が出てきたように思っています。

Natural Flood Management

まず、ネイチャーポジティブについても、グリーンインフラについても、国の閣議決定レベルの施策に既に書き込まれているということはすごく大事だと思っています。 これは国土交通省だけがやればいいということではなくて、全て国としてやっていくということです。 環境省中心ですが生物多様性国家戦略、閣議決定ではないですがグリーンインフラ推進戦略、第三次国土形成計画や国土強靱化基本計画は、防災計画の最上位に当たるものですが、そこにもきちんと書かれている。 定量的環境目標の議論もあります。 SIPでもスマートインフラの中にグリーンインフラのサブグループができていて、私もプログラムマネジャーをやっていて、グリーンインフラの実装の議論を始めています。

イングランドでも、かつて日本と同様に洪水を早く海まで流すという戦略だったところ、逆に、支流域においては特に遅らせるということになっています(図1)。

図1 イングランドの洪水防御戦略

リーキーバリアは多目的ですが、効果は少しでも、たくさんの場所でやることで流出を遅らせるといった方向性を見いだしていると思います。 現地では写真も含め様々な倒木・流木ダムを見せていただきましたが、私は1980年代にオレゴンに行ったときに同じようなものを既に見ていました(図2左上)。 北海道でも、1990年代にやっていました(図2右上)。 ただ、目的はあくまでも河川のハビタットの改善です。 流出を遅らせる目的よりも、単調になってしまった河道に対して、どうやってより質の高いハビタットを造成していくかというイメージです。 1980年代当時のオレゴンの話ですが、河川を横断する倒木があるとサケの遡上に支障になるのではないかということで、70年代から撤去されてきました。 しかし、取れば取るほど魚がいなくなっていったので、間違いだということでもとに戻していった、ちょうどそんな時期でした。 現在は、ステージ0のレストレーションということが進められています(図2下)。 できるかどうかは別にして、最初の自然のステージに戻してしまえという、野心的なプロジェクトです。 かつての自然状態はわかりませんが、たくさんの倒木を河道の中に入れて、自然が進化していくのをそのまま任せるというものです。 賛否両論あって、科学的に論じるところまでまだ詰められていないと思います。

図2 オレゴン州と北海道の事例

バイオロジカル・レガシーについてです。 レガシーという言葉ですが、さきほどの倒木なども、生物的な遺産であるバイオロジカル・レガシーです。 東日本大震災でも震災直後は倒木がたくさん残っていました。 しかし、復旧、復興の整備にとっては邪魔になるので、日本の場合、取り除くほうに進みます。 河川の洪水後の復旧事業などでも同じことが起こると思います。 震災直後の写真(図3)を見ると、一見壊れたように見える松林ですが、よく見ると緑の濃いクロマツの実生など、既にたくさんの実生が生えているのがわかります。 レガシーは大事なのですが、実際に現地では、これが埋め、幅200m、深さ2mぐらい、何百kmにわたって防潮林を造りました。 埋めたうえで植樹がされましたが、そのときレガシーへの配慮はほぼありませんでした。 その後どうなったか。 レガシーを埋めて植樹した場所とそうでない場所を2019年に調査(図4)したところ、後者の成長が早いことがわかりました。 2021年に再度調査をすると、その差はさらに開いていました。 自然には自然なりのルールがあり、レガシーをうまく利用して回復するというプロセスがありますが、残念ながら人間がやると、そうならない。

図3 東日本大震災後の状況
図4 2019年の調査状況

風倒木でも、普通は地ごしらえして平らにしますが、うね状にレガシーを残しその上に植林したところと攪乱後のレガシーをそのまま残す場所を2008年に設けてもらいました(図5)。 2012年に比較すると、後者の方が豊かになった。 もともとたくさんの生存個体がいて、そこから生えてくる、蘇ってくるということです。 2023年には両者の差がさらに開きました。 植林地でも一見緑が増えていますが、植えたミズナラは枯死し、自然に侵入してきたトドマツの個体が増えていました。 意図したミズナラ林はほぼできなかったという結果です。 レガシーという言葉を覚えておいて頂いて、レガシーを残すことを考えてほしいと思います。

図5 風倒木箇所での比較

森林の分野では、皆伐ではなく島状に残すような、日本の場合は人工林に入ってきた広葉樹を残すような取り組みが進められています(図6)。 これをリテンションフォレストリーと言っていて、どうやってレガシーを残すか、残すことによって生物多様性の回復や維持を図っていくという考え方です。

図6 Retention forestry

災害復旧後に河床が整正され護岸が貼られた川をよく見ます。 徹底的にレガシーが取り除かれています。 また、地形も大事で、定規断面的に整地し直すと、もともと生物にとって大事な場所が失われてしまうケースもあります。 ぜひレガシーを残すことを考えてもらいたいと思います。

釧路川で蛇行を再生したときも、掘削が必要な旧川にたくさん倒木が出てきました(図7)。 掘削してもいいけど、出てきた沈木や倒木を元に戻してほしいとお願いし、元に戻して頂きました。 その結果、この蛇行が完成し、我々のターゲットであったイトウが、すぐ戻ってこないと思っていましたが、既に復活しています。 効果は魚類の生息数や種数のデータにも表れていて、レガシーは大事だということです。

図7 釧路川の沈木、倒木

Space for Rivers

続いて、Space for Rivers、部分拡幅の話です。 日本では部分拡幅というのをあまり見たことがなくて、越流堤を造って堤内に遊水地として確保する感じが多いのですが、ヨーロッパでは部分拡幅が結構行われていて、一部を拡幅し、その中に砂州ができて多様な環境ができるといったものです。

スイスで湾曲部外岸側の高水敷に流木止めを設置する箇所(図8)を見ました。 これは、日本にも導入して頂きたいと思います。 日本では流木止めを横断的に造りますが、流木が挟まると除去するのも大変ですし、ダム的な構造物になってしまうので生物にとってもあまりよくありません。 それに対して、流木は浮いて流れてくるのがほとんどなので、遠心力で外側に集めて流木を貯めるというのが、今回のスイスの流木止めです。 実は日本でもやっている箇所があるのですが、特に山地渓流だとスリットダム的な方法しか考えないので、今回ご紹介した、いなして貯めるような、河川空間を活かした流木の捕捉のようなものを考えて頂きたいと思いました。

図8 部分拡幅と流木止め

フラーツ川を掘削してイン川とフラーツ旧川に余裕ができると、彼らはそこに自然再生を持ち込むという考え方を持っています(図9)。 バイパス水路を造ったら、もちろんバイパス水路の環境も考えますが、新しいスペースができ、環境に対して配慮することができるというので、そこを利用して様々な環境保全がなされました。

図9 Space for Rivers

日本では、千歳川の例ですが、石狩川のバックウォーターで緩勾配の千歳川の水が入らない。 81年洪水で千歳川放水路の議論があり、それはやめて、結局、遊水地が6つできました。 ほぼ100年以上、この石狩低地帯でタンチョウが繁殖していなかったのですが、見事に繁殖したのが最初にできた舞鶴遊水地です。 それ以外でも、エスコンフィールドの前にある東の里や恵庭の方でも繁殖しており、タンチョウにとっては遊水地が、釧路以外の場所、特に札幌近郊では大事な生育・繁殖の場になっているということです。 流域治水に関する法律の附帯決議として、グリーンインフラを活用して生態系ネットワークの形成に資することが書いてありますが、その好事例と言えます。

円山川の事例では、河道拡幅というよりもスペースができることによって、そのスペースをコウノトリが生息、繁殖、採餌の場として使っています。

十勝川でも、氾濫原の中央部を切り下げて洪水時だけ水が流れるようにしています(図10)。 これにより、巨大な湿地帯がそこに造成されるわけです。 空間を確保することによって気候変動の適応策と自然再生が両立できると思います。

図10 十勝川の事例

パートナーシップ

イングランドのファイナンスの話がさきほどありましたが、誰が事業をやるのかを聞くと、トラスト側なんです。 日本の場合は、河川管理者が工事を実施する主体だと思います。 イングランドの場合、河川管理者はお金を払う側であって、中心になるのはトラストであり、他は皆がサポートする。 日本では考えづらいし、合意形成が難しいのではないかと思うのですが、パートナーシップが将来的には重要だろうと感じました。

十勝川では、氾濫原の掘削によって湿地再生をした箇所で、企業やNPOとの連携で維持管理を行う取り組みが行われています。 環境省、国交省、農水省の3省共管の生物多様性増進活動促進法が、今年成立しました。 今までは30by30のOECM、自然共生サイトで、良い地域を認証するやり方でしたが、今はよくなくても活動が良い方向へ向かっているならそれを支援しようという仕組みになりました。 十勝川でも、湿地再生箇所の管理に会社が自ら手を挙げてくれました。 会社にとっても、TNFDなどで企業の貢献を公開できるメリットがあります。 このような企業とNPOの連携、行政とどう繋がるかというパートナーシップも、徐々にではありますが、日本でも芽生えてきていると思います。

モニタリングも、パートナーシップとして十勝川でやっています。 ここに参加した高校生が、今、帯広の事務所で働いている事例も出てきていて、地元への愛着が湧いてくるということで、一つ大事なプロセスなのかなと思いました。

できれば経済が回ってほしいと思います。 舞鶴遊水地にタンチョウが来たときに長沼の人たちがタンチョウをモチーフにした様々な商品を販売しました。 そのお金の一部はタンチョウの保護活動に使われました。

おわりに

学生時代にゲルディさんが北大に来てくださって講演を聞いたことがありましたが、今回、現地でゲルディさんにお会いしました(図11)。 90年代後半にヨーロッパへ行った頃は、コンクリートを剥がして石を積むといった要素技術としての近自然河川工法を見てきた印象でした。 今回の訪欧では、トータルとして治水も環境もどう管理していくかとか、全体のマネジメントを考えた自然再生とか、そういうフェーズに変わっていると感じました。

図11 Take-home message

Take-home messageですが(図11)、河川の分野においてもレガシーを残していただきたい。 スイスで山脇さんに「掘削をうまくやることによって環境を何とか回復させることも考えている」と言ったら、 「それは違う。掘削は最後に考えるべき。まずはSpace for Riversだ。掘削でよくなるケースというのはなかなかない」と言われました。 確かにあまりにも掘削に頼り過ぎると、過剰な形で、もう環境が復元できないような河道にしてしまう可能性もあります。 そういう意味では場を与える、そこにレガシーを活用していく。 それから、協働、パートナーシップの仕組みが大事だと思いました。

図12

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