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2024年 欧州近自然川づくり調査報告

7. これからの川づくり「近自然工法」から「流域総合水管理」〜2024欧州河川視察より~

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名古屋大学 名誉教授 辻本 哲郎

要約

ワイヤ川

まず、イギリスのワイヤ川。 訪問したのは示した地図で言えば真ん中あたり(図1)で、河口までは行ったわけではなく「流域治水」がテーマだとしても全体を見ていないので、川の全体像を感じることはできなかった。 流域治水となれば少なくとも水系で考える必要がある。 上流側から谷口に出て、河口から海に出る。 河口部は潮の満ち引きも大きいから塩性湿地ができているといったように、水系には様々な問題がる。 水系の問題を議論しないまま流域治水というのも変な感じだという気がしたものだ。

図1 ワイヤ川の位置関係

とはいうものの我々が「流域治水」として認識しているやり方をここでは上流部で実施している(図2)。 地形図を見るとその辺りには湖が連なり、丘陵地から続いてほとんどが牧草地として利用されている。 おそらく、この流域治水を実施している場所で流出抑制すると谷口集落には効果的に影響するだろうと思う。 都市と言っても小規模。 都市と上流との協力で治水安全度が上がるというのはこういった規模の問題が避けられない。 そこからどう脱却していくのかなとも感じた。 データ取得について現地でも説明があったが、論理性や実験的なデータの積み重ねなどについて地域的であって水系としては考えられていないという印象を受けた。 スイスでも、国として考えているということだが、川の問題を国として、あるいは水系として考えるというよりも、断片を切り取って、安全度、あるいは自然保全などを考えているという印象だ。 水系あるいは流域をどのように考えるか、日本との比較で考えたとき、水系のイメージは異なり、上流問題と下流問題のようなものを流域でどう考えるかが大事だと感じた。

図2 ワイヤ川の流域治水対策

パートナーシップについては、上流側に拠点を設けて、いろんな人たちが話し合う場所がある(提供できている)ということが重要なことだと感じた。

ワイヤ川のすぐ南にマージ―川がある。 そのマージー川では、皆さんも聞かれたことがあると思うが、「マージー川流域キャンペーン」(図3)というのが、水質問題を原点としてかなり早くから始まっている。 こういう歴史的な取組がお隣のマージー川であったということもワイヤ川の取り組みに非常に大きな影響を与えたという視点も重要だとそのときに感じた。 筆者は1970年台に学生時代を送ったが、その頃さらに80年代に習ったことを思い出すと、流域キャンペーンなどは、古くからイギリスに根づいていたのだ。 日本ではそうした行動・活動が繋がらなかったが、英国ではそのような仕組みが繋がって、現在の治水と気候変動あるいは生物多様性という問題にもそれをうまく使えているのではないかとの印象を受けた。

図3 マージ―川流域キャンペーン

ワイヤ川を見ると、先ほども述べたが、河口部は塩性湿地、中流部に都市住民がいる。 都市住民と放牧地、牧草地の関係、それがさらに中流域の都市と、下流域の沿岸でどう議論が進むのかなということに興味が沸く(図4)。 調べてみたい課題だと思いながら、なかなか調べられていない。

図4 上下流等の問題

筆者としては、ここでの取り組みを、日本のことと比較しながら、上・下流問題、あるいは水系一貫をどうするのかという視点で様々な取り組みを学んだ。

ロンドン

次に行ったロンドン、テムズ川の河口はもっと下流。 さらに上流には取水施設や貯水池があるという。 ここでは「WWTロンドン湿地センター」(図5下)を訪ねたが、これは不要になった貯水池の跡を人工的な湿地にしたもの。 この湿地は感潮河川に接していて、感潮域の湿地の水際をどう処理するのかという点で非常に興味深かったのだが、実際は人工的な作庭で、ここの水は上流から上水道や工業用水の配水ネットワークによって供給されているという。 当初期待して出かけたものにとってはそこが若干残念な点だった。

図5 ロンドンでの調査箇所

テムズバリア(図5上)は、我々工学系の人間にとっては非常に興味深い、スマートな高潮水門だ。 日本でも大河津分水で昔はベアトラップが造られたが、洪水で倒壊したあと宮本武之輔がローラーゲートに変えそれがうまくいった。 しかし地震の多いわが国ではうまい工夫でトップヘビーにならないような水門が欲しいなと思いながら、興味深くこの斬新なゲートを見学した。 日本のライジングセクターゲート(図6)は、テムズバリアの改良型だと言われている。 堤防技術とともに水門も我々が学ばなければならない河川技術であるにもかかわらず、河川工学の講義などではあまり取り上げない分野で、こうした事例だけでも伝えるのは重要だと感じた。 気候変動への取り組みなどについても興味深く学んだ。

図6 日本のライジングセクターゲート

スイス

スイスは、80年代に1年間滞在した縁もありこの国の川への興味は尽きない。 本海外河川調査シリーズでも2019年、23年、24年と、丁寧に見てきたところだ。 その調査機会での拠点以外にもスイスの川は視察・調査してきたが、そこでの視点は拠点別ではなくて、水系がどうなっているかだ。

スイス(図7)は、国土のほとんどがライン川の流域。 今年の視察対象だったイン川はドナウへ流れるし、レマン湖、アイガー、マッターホルンの南側を回る川はフランスへ流れているが、それ以外はほとんどがボーデン湖から出てくるライン川に合流する。

ベルンを通って流れてくるアーレ川は東に進んでボーデン湖から出るライン川に合流する。 こういった水系を、拠点別に見るのか、あるいは、川単位で水系として見るのかが両視点を比較することは私の興味の的だった。

図7 スイスの河川

さてリント川はチューリッヒ湖に上流の南側から入ってくる川。 チューリッヒ湖直上流の氾濫原を洪水から守るために100年以上も前にエッシャー運河ができた。 リント川をチューリッヒ湖の手前で流路変更してヴァーレン湖に流し、そこに土砂をため、また洪水調節してチューリッヒ湖方面に流す試みだ。 これによってチューリッヒ湖の下流には非常に重要な都市であるチューリッヒがあり、そのまちを守っている。 チューリッヒ湖は非常に大きいので、洪水調節は日本のように水系一貫でなく、その上流と下流では別ものとして閉じているかもしれないという印象を受ける。

2023年の調査では、リマト川下流で自然を整えレクリエーションの場をつくった箇所を視察した(図8)。 彼らにとって環境とは人との触れ合いをサポートするような川づくりであり、自然と一体化したレクリエーションの場をどうつくるかという点で、非常にすばらしい空間をつくっていた。 その折、洪水時の安全性が確保されないとレクリエーションは非常に危ないものになるので、出水時のハイドログラフを見せてもらった。 そうすると、結構急峻に立ったハイドログラフで、上流側にチューリッヒ湖があるのになぜ急峻なハイドログラフになるのかが一瞬疑問だった。 実はチューリッヒ湖の西側を流れるジール川がリマト川に合流していてこの川の急なハイドロが原因している。 このレクリエーションの場は、ジール川がどんなハイドログラフを与えるかということに影響を受けているのだ。 チューリッヒの治水問題はチューリッヒ湖から流れてくる本川はいいとして、隣のジール川が流木もいっぱい流してくるし、非常に速いハイドログラフであることにある。 また、チューリッヒ中央駅の下を暗渠で流れているので、治水問題をしっかり認識しながらの議論が必要なのだ。

図8 リマト川の自然再生・親水整備とジール川の整備

これらのポイントが3回の訪欧で繋がった。 川に沿って治水の問題も環境の問題も考えることが必要だという標本みたいな例だ。 すなわち、リント川のエッシャー水路、チューリッヒ湖、リマト川、それからジール川がアーレ川と合流しライン川に合流する。 ボーデン湖から流れてきたライン川との合流点は、洪水の常襲地であり、農業適地でもある。 このエリアを洪水からどう守るか、農地の安全度をどう確保するか、水源の利用をどうするかといった問題がある。 ということで、やはり水系での議論が気になるところだった。 そしてさらにはドイツに、洪水であろうが、水質であろうが、土砂であろうが、全部引渡すわけだ。 ヨーロッパという大河川の中で、どういう部分が役割というか、問題なのかを示したことになる。 そこをきちんと認識できているかがちょっとまだ分かりにくいところといえるかもしれない。

ジール川には流木止め(図9)が造られている。 それはETH(チューリッヒ工科大学)での実験で検討されたもの。 外岸側で流木を捕捉するが、通常、外岸側には余裕がない。 ここでは、外岸側に洲をある程度造成して、外岸側を流れてきた流木を止めるといった実験をETH(チューリッヒ工科大学)で行っていた。

図9 ジール川の流木止め

日本でも、九州北部豪雨の後の赤谷川に流木止めを同じような形式で造っている(図10)。 日本ではVCCD工法と言ってVertical Column Cantilever Driftwoodのことだが、どちらかといえば構造が気になっているようだ。 そこでは、どれだけの力がかかって、どういう杭を打てばいいのかといった議論になっていた。 様々な視点がどのように総合化されるかに興味がわく。

さて、エッシャー水路のエッシャーさんだが、100年ほど前のスイス人。 日本にはオランダ人のエッシャーさんが来て、100年前に明治の改修をやっているが、それは別人。

図10 ジール川と赤谷川の流木止め

ところで、土砂の問題なのだが、土砂を含む洪水を一旦ヴァーレン湖に入れて土砂を落とし、チューリッヒ湖に向けて流すという形をとっている(図11)。 土砂の問題と洪水の問題にうまく対処したという話なのだが、昔は必ずしもうまく事が運ばなかった。 2023年に見たロイス川(図12)では、遊砂地を造って洪水のときの川の水を遊砂地に落としていた。 ここでは、放流口を岸から離して設け、土砂を湖の中に放り出すようにしたのだが(図13)、その結果、湖岸侵食が非常に深刻になるという課題が生じることになった。 一方で、その後、土砂を浚渫して自然再生に利用する土砂源になった。 人間の業というのは、いろんな工夫をしながら失敗し、それを元手に工夫する。 自然災害のレガシーを残すという話があったが、人間がわざわざレガシーをつくって、それを利用しながら、また次の新しいものを再生しているということに感動した。

図11 リント川の改修
図12 ロイス川の事例
図13 ロイス川の放流口とロイスデルタ

おわりに

今日お話しした今回の河川視察の報告としての事柄をどう受け止めて、日本の治水、自然再生や生物多様性などにどう活かしていくのか。 参考にして頂けるところがあればと思う。

私からは、河川を考えるとき、流域という空間に一気に飛ばずに、水系という意識を持ちたいということと、ヨーロッパでは、スイスの中では水系で議論が閉じるのかもしれないが、スイスからドイツへ入るときには、洪水の受渡しや土砂の受渡しをどう考えるのかということが流域という視点に加わるべき大きな課題だなというのが今回の視察を通しての感想だ。


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