リバーフロント研究所 /研究テーマ /多自然川づくり /2024年 欧州近自然川づくり調査報告
本調査は、我が国の河川管理への知見を得ることを目的として行っており、昨年8月の調査が第3回になります。 今回は、生物多様性ネットゲイン施策等の導入が進むイギリス、近自然工法について歴史的に取り組まれてきたスイスを調査対象としました。 昨年5月の「生物の生息・生育・繁殖の場としてもふさわしい河川整備及び流域全体としての生態系ネットワークのあり方検討会」提言を踏まえ、今後の取組を推進するに当たって参考となる知見を得ることを目的としました。
調査団は、辻本先生を団長として、中村先生、池内理事長、安田先生、中村グループ長、加えて本省、河川系の財団、さらに足立先生と秘書の竹島さんにもご同行頂き、合計15名で構成されました。
イギリスでは3か所を巡りました。
ワイヤ川流域(図1)はイギリス中部に位置しており、生態系サービスを活用して洪水を管理する自然洪水管理(Natural Flood Management)に取り組まれています。 また、洪水管理のみならず、水質汚濁の低減、生物生息環境やハビタットの連続性の向上等を図っています。 特徴的なのは、環境問題に関心の高い投資家等から得た資金を基に対策を実施しているという点です。
次に、ロンドンにてイギリスの政府関係者等の方との意見交換を行いました。 テムズ川では、気候変動の見通しに応じて、河口域における柔軟な適応策を採用するための「Thames Estuary 2100」計画(図2)によって、継続したモニタリングと合わせて対応策の検討が進められています。 レジリエンスのある地域づくりだけでなく、レクリエーション等の場の形成、CO2削減、気候変動に伴い喪失する生物生息場の回復等の総合的な計画が検討されていました。 また、チョークストリームという湧水起源の河川が、特にイギリスで特徴的に見られるのですが、流域ベースの水環境再生戦略アプローチということで、流域内の関係者とパートナーシップを形成し、協働しながら事業を実施しているというお話を伺いました。
最後にロンドンから程近いところにあるWWTロンドン湿地センター(図3)に行きました。 もともと貯水池だったのですが、所有者が手放して水質が悪化していたところを、湿地として再生されたということでした。 大変いい環境になっていまして、我々が行った際も大変賑わっていて、市民に親しまれていました。
スイスも3か所巡りました。
まず、チューリッヒ市街地を流れるジール川ですが、市街地の浸水への懸念から治水計画が検討され、治水対策と自然環境への代替策、再自然化が実施されています。 印象深かったのは、工事現場脇の広報施設(図4)です。 2階から工事現場が見渡せるようになっています。 親しみやすいイラストで工事の概要が描かれていたり、過去の災害や工事の効果がビジュアルに説明されていたりしました。 子供が遊べるようにもなっていて、散歩の合間に立ち寄れるような場所でした。
2か所目のリント川では、超過洪水対策に取り組まれています。 河道の拡幅による再自然化、また環境への代償措置も合わせて実施されていました。
最後のイン川(図5)ですが、こちらも洪水防御と自然再活性化が行われています。 河道を付け替えたり、再活性化として生息場を増加させたり、景観の改善、レクリエーション利用の拡大などに取り組まれていました。 モニタリング指標も設定されていて、順応的な管理が行われているということでした。
多くのことを学ばせて頂きましたが、3点(図6)挙げますと、1つ目、特にイギリスですが、気候変動という不確実性の中で柔軟に計画を見直していく仕組みが参考になりました。
2つ目は、特にスイスですが、自然再生について定量的に評価し、結果を踏まえて継続的に維持管理する。 また、知見の横展開を図っていました。 技術者の育成により、次世代につなげていくということも印象深かったです。
3つ目は、ほとんどの事例が、行政だけではなく、企業や環境NPOなど様々なステークホルダーと協働していることです。 その鍵が何かと考えると、目的が多角化されて様々な関係者が集っている。 利害関係は出てきますが、情報や戦略の共有によって利害調整を図ろうとしているという点が特徴的だと思いました。
最後に、水辺空間が、人が関わる場としてつくられていることのすばらしさを体感しました。 また、川は都市の顔であり、風景の軸になっていることに改めて気づかされました(図7)。
現地では大変多くの方にお世話になり、本当にありがとうございました。